おひさしぶりです。もと地方公務員で入札契約担当の部署に7年いたヒジリです!
このページでは、契約自由の原則に対する制限について、できるだけわかりやすく解説します。
契約自由の原則って、どこまで自由なの?制限はないの?
こんな職員さんのための記事です。
本記事では、後編として「契約自由の原則に対する制限」について解説します。
前編では「そもそも契約自由の原則とは何なのか」ということについて解説していますので、まだ確認されていない方は、そちらから読んでみてください。
契約自由の限界
契約自由の原則は近代社会発展の原動力となりましたが問題が出てきました。
資本主義・自由競争社会は貧富の差を生んでしまったんです。
契約自由の原則は、人は生まれながらにして自由であり平等であるという考え方に基づいているはずなのに、貧富の差が拡大してしまっては経済的な強者が自己に有利な契約ばかり締結できてしまいます。
例えば、大企業という経済的な強者が労働者を雇用する際に、何ら制限のない相手方を選択する自由があったらどうでしょうか?
面接内容なんて関係なしに男性ばかり採用してやろう
男女差別だわ・・・
何ら制限のない契約内容の自由があったらどうでしょうか?
時給500円で1日18時間働く雇用契約にしてやったわ
ブラックすぎる・・・
このように契約自由の原則をかたくなに貫いてしまうと、経済的な弱者を犠牲としながら強者が勝つ社会となってしまい、公共の福祉が維持できなくなってしまいます。
そんな社会にならないよう平等を確保するため、契約の自由を制限する様々な法律があるんです。
契約自由に対する制限と具体例
契約自由の原則には、次の4つの側面があることを前編で勉強しました。
- 契約締結の自由
- 契約の相手方を選択する自由
- 契約方式の自由
- 契約内容の自由
自治体契約に関わりのあるものを中心に、それぞれの自由に対する制限と具体例をみていきましょう。
契約締結の自由に対する制限
契約締結の自由には「契約する自由」はもちろん「契約をしない自由」も含まれています。
でも、契約しないって言われたら困ることってありますよね。
例えば自治体が経営する水道事業です。
市民が水道を使いたいと供給契約の申込みに来たら、職員は断れるでしょうか?
もちろん断れませんよね。これは、水道法によって、供給契約の締結を拒むことはできないとして契約締結の自由を制限しているからなんです(水道法15条1頂)
相手方選択の自由に対する制限
自治体の活動は、そのほとんどが税金でまかなわれていますから、無駄な支出がでないように契約の相手方を選ぶ際には経済性を重視しなければなりません。
それと同時に自治体は市民全体の奉仕者ですから、特定の人を優遇して契約しないように公平性や公正性も大事にしなければなりません。
そのため地方自治法234条1項から3項では、自治体の職員が好き勝手に契約の相手方を選ぶことができないように相手方選択の自由を制限しているんです。
(契約の締結)
第二百三十四条 売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約 又はせり売りの方法により締結するものとする。
2 前項の指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる。
3 普通地方公共団体は、一般競争入札又は指名競争入札(以下この条において「競争入札」という。)に付する場合においては、政令の定めるところにより、契約の目的に応じ、予定価格の制限の範囲内で最高又は最低の価格をもつて申込みをした者を契約の相手方とするものとする。ただし、普通地方公共団体の支出の原因となる契約については、政令の定めるところにより、予定価格の制限の範囲内の価格をもつて申込みをした者のうち最低の価格をもつて申込みをした者以外の者を契約の相手方とすることができる。
地方自治法より
自治体契約では、原則、一般競争入札により自治体にとって最も有利な価格で申込みをした人と契約しなければならないとされています。
一般競争入札ってなんだろ?
一般競争入札とは、まず自治体が契約したい案件の情報をホームページや掲示板に掲載して広く契約の相手方を募集します。
その後、集まった応募者に価格競争をしてもらい、原則一番安かった人と契約を締結する方式のことです。
契約方式の自由に対する制限
契約方式の自由に対しても、自治体がする契約は地方自治法により制限されています。
普段、僕たちがしている一般の契約は必ずしも契約書を作成する必要はなく、お互いが合意した時点で契約が確定していましたよね。
契約が成立する仕組みがわからないという人は次の記事を参考にしてください。
しかし自治体の契約では、契約が成立した時期を明確にするため、契約書を作成する場合には両者が記名押印して初めて契約が確定するとされています(地方自治法234条5項)
さらに、地方自治法には書かれていませんが、各自治体の規則の中に一定金額以上の契約をするときは、契約書や請書を作成しなければならないとされているのが一般的です。
税金を使って締結する高額の契約が、口頭だけで証拠書類がなにも無いようでは困りますからね。
規則の名称は自治体ごとに異なります。職員さんはご自身の自治体の規則を確認してみましょう。
財務規則や会計規則、契約規則といった名称であることが多いです。
契約内容の自由に対する制限
公序良俗
自治体の契約に限らず、契約内容が公序良俗に反している契約は無効となります。
公の秩序のこと。公の秩序を守るため、その契約が反社会的・反道徳的であるときは無効となる(民法90条)
お金持ちのおじさんがお金の見返りに若い女性を愛人にする契約は、公序良俗に反するとして裁判所では無効と判断されています。
強行規定と任意規定
法律の規定には、強行規定と任意規定の2種類があります。
この両者を理解しておくことは、契約はどこまで自由なのということを考えるうえで大切になります。
- 強行規定:契約する当事者の合意によって変更することが許されない法律の規定
- 任意規定:契約する当事者の合意によって変更することが許される法律の規定
契約自由の原則では契約する当事者同士が合意すれば、契約内容を自由に決めることができました。
しかし、仮にその契約内容が法律に反してしまった場合、その法律の規定が強行規定なのか任意規定なのかが問題になります。
強行規定であった場合は、お互いが合意していたとしても契約は無効となります。
任意規定であれば、契約内容が優先され契約は有効となります。
- 契約自由の原則 < 強行規定
- 任意規定 < 契約自由の原則
例えば、企業とその従業員さんが1日18時間働くなんていう無茶な契約を締結したとします。
しかし弱者である労働者を保護するという目的をもった労働基準法の中では、1日の労働時間の上限を定めていますから、1日18時間働けなんていう契約は無効になるわけです。
会社と従業員さんが合意さえしていれば、何でもOKというわけではないんです
まとめ ー契約の自由は制限されているー
このページでは、契約自由の原則に関する後編として、契約の自由に対する制限を勉強しました。
契約は民法がベースなんだから契約自由の原則があるんだよ
お互いが合意していれば、どんな契約でもできるんだよ
これは半分正解で半分不正解ということが、ここまで読んでくれた人はわかったと思います。
契約自由の原則には限界があり、あらゆる側面から制限を受けています。
契約内容の相談を受けたときは、その契約が制限の対象になるのかという視点を忘れずに!
お疲れさまでした!