お久しぶりです。もと地方公務員で入札契約担当の部署に7年いたヒジリです。
このページでは、無権代理と表見代理について解説します。
無権代理と表見代理ってどういう意味?
何か違いがあるのかな?
こんな職員さんのための記事です。
契約関係の仕事をしていると少なからず耳にする言葉ですが、両者を混同してしまってる職員さんも多いのではないでしょうか?
でも大丈夫です。
このページを最後まで読んでもらえれば、無権代理と表見代理それぞれの意味と両者の違いを理解することができますので安心してください。
契約を制するものは公務員を制す!
それではやっていきましょう
無権代理とは?
そもそも契約行為のベースである民法において代理とは次のような意味でした。
ある人が本人に代わって意思表示をする権限(代理権)を与えられている場合に、その人(代理人)が行った意思表示の効果が本人に帰属する制度
いまいちピンとこない方は、代理制度の基本について次のページで解説していますので、そちらから確認してみてください。
本ページの内容が理解しやすくなるはずです。
そして無権代理とは、代理人として代理行為をしたにもかかわらず、その行為について代理権を有していなかった場合をいいます。
代理権がない人が行った行為ですから、原則、その効果は本人に帰属しません。
「本人に帰属する」という言い方に馴染みがないかもしれませんね
別な言い方をすると「本人の所有になる」という意味です
ただし、後日、本人がその行為を追認すると、代理権があったものとして本人に帰属することになります。
民法における追認とは、取り消すことができる行為を取り消さないことにして、その行為を確定させること
例えば、無権代理人が買主として車の売買契約を締結したとします。
無権代理だったわけですから、本人は車の売買契約を取り消すことができますが、取り消さずに「ちょうど車が欲しかったから買うことにするよ」と本人が車屋さんに伝えた場合、これが追認になります。
ちょっと待って!
追認されればいいけど、されなかったら本人に帰属しないなんて、契約相手の人は困ってしまうのではないかしら?
そうですよね。
代理人だと信じて契約したのに「無権代理だったのでその契約は無かったことに」なんて突然言われても契約相手の人は困ってしまいますよね。
そこで民法では、無権代理行為を本人が追認しない場合には、無権代理行為をした人に対して、契約の相手方は次のいずれかを請求することができるとしています。
- その代理行為によって成立した契約の履行
- 契約の履行に代えての損害賠償
ただし、契約の相手方が次のいずれかに該当する場合は、上記の請求をすることができません。
- 代理権がないことを知っていたとき
- 代理権がないことに気づける状況だったにもかかわらず、自らの不注意で気づけなかったとき
- 代理人として契約した人が制限行為能力者だったとき
契約相手の人にも落ち度がある場合は、請求できないということですね
「制限行為能力者ってなに?」と思われた方は、自然人の記事中で解説していますので参考にしてみてください。
表見代理とは?
無権代理は、権限がない人が行った代理行為ですから、その効果は本人に帰属しませんでした。
しかし、代理権があると相手方が信じてしまうのがもっともな場合に限って、その行為の効果が本人に帰属する無権代理があるんです。
これを表見代理といいます。
あたかも代理権があるような外観をしていて、それを信頼したのは仕方のないことなのだから、契約の相手方を法的に保護する必要があるという考え方から民法に定められているのが表見代理の制度です。
表見代理となるケースには、次の3種類があります。
- 代理権授与の表示はあるが真実の権限授与がない場合
- 代理権限はあるが、権限の範囲を超えた法律行為を行った場合
- 代理権限が消滅した後に代理行為を行った場合
いずれの場合も代理権があると信じてしまう正当な理由があり、相手方が善意・無過失の場合に限ります
- 法律における善意とは、ある事実を知らなかったこと、または信じたこと。逆に、法律における悪意とは、ある事実を知っていたこと、または信じていなかったこと。
- 無過失とは「落ち度がない」こと。注意していても気づけなかったこと。気づいてなかったとしても、注意していれば十分気づけた状況であれば無過失にならない
どちらの用語も自治体職員をしていると、頻繁に耳にする用語ですので、これを機会に頭の片隅に入れておきましょう
無権代理と表見代理の違い
表見代理も広い意味では無権代理の一種になりますから、前段でみてきた無権代理をここでは狭義の無権代理として、表見代理と比較してみましょう。
- 狭義の無権代理:本人が追認しなければ、本人に効果が帰属しない。本人が追認しない場合は、無権限で代理行為をした人に対して、履行や損害賠償を請求することができる。
- 表見代理:無権代理の一種だが、一定の要件を満たしている場合に限って、無権限の代理行為が本人に帰属する。
狭義の無権代理は、その責任の所在が本人ではなく無権限で代理行為をした人に向いているのに対して、表見代理の場合は本人に帰属するというのが大きな違いです。
表見代表取締役
民法の表見代理に似たしくみが会社法(株式会社について定めている法律)にも規定されています。
自治体では、株式会社や有限会社と取り引きすることが多いので紹介しておきます。
(表見代表取締役)
第三百五十四条 株式会社は、代表取締役以外の取締役に社長、副社長その他株式会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付した場合には、当該取締役がした行為について、善意の第三者に対してその責任を負う。
会社法より
代表取締役を選定している株式会社の代表権を有しているのは代表取締役です。
その他の取締役には代表権がありません。
ところが企業によっては、その他の取締役に社長や副社長の肩書きを付している場合があります。
このような代表権がないのに表面的にはあたかも代表権があるかのように見える取締役のことを表見代表取締役といいます。
代表権を有さない表見代表取締役ですが、取引の相手方から見ればあたかも代表権があるかのように見えますから、誤信して契約を締結してしまうのも仕方がないことですよね。
かわいそうな取引の相手方を保護するため、代表権が無かったことを知らなかったときは、表見代表取締役がした行為の効果が会社に帰属することになり、会社は責任を負うことになります。
まさに表見代理の株式会社版といった内容ですね
まとめ
このページでは次の点について解説しました。
- 無権代理と表見代理の意味
- 無権代理と表見代理の違い
- 表見代表取締役
- 無権代理:代理人として代理行為をしたにもかかわらず、その行為について代理権を有していなかった場合
- 表見代理:無権代理の一種。代理権があると相手方が信じてしまうのがもっともな場合に限って、その行為の効果が本人に帰属する無権代理
- 狭義の無権代理:本人が追認しなければ、本人に効果が帰属しない。本人が追認しない場合は、無権限で代理行為をした人に対して、履行や損害賠償を請求することができる。
- 表見代理:無権代理の一種だが、一定の要件を満たしている場合に限って、無権限の代理行為が本人に帰属する。
無権代理は責任の所在が無権代理をした人に向いているのに対して、表見代理は本人に向いているのが大きな違いです。
表見代表取締役とは、代表権がないのに表面的にはあたかも代表権があるかのように見える取締役のこと。
会社法354条の規定により、表見代表取締役がした行為の相手方が善意の場合、会社はその行為について責任を負うことになる。
お疲れさまでした!