契約基礎編

自然人とは?契約主体についてわかりやすく解説します

ライオンと女の子

お久しぶりです。もと地方公務員で入札契約担当の部署に7年いたヒジリです

このページでは契約主体、つまり契約を締結することができるのは誰なのか、ということについて解説します。

新採職員さん

自治体の契約の相手方って誰でもなれるの?

何か制限はないのかしら?

こんな職員さんのための記事です。

本記事では前編として契約の主体になれる自然人について、別記事で後編として法人について解説します。

ヒジリ

自治体職員として必要な部分に絞ってシンプルに解説します

契約主体になれるのは? ー自然人と法人ー

契約主体というと難しく聞こえるかもしれませんが、ようは契約を締結できる人という意味です。

契約の当事者とも言えますね。

色々な表現ができてしまうので、ここでは契約主体に統一します。

私法上の契約主体になるためには、権利や義務の帰属主体になれる必要があります。

私法上の契約ってなに?と思われた方は、こちらの記事を参考にしてください。

魔法使い3人
公法上の契約と私法上の契約とは?違いがわかる魔法の言葉を伝えます おひさしぶりです。もと地方公務員で入札契約担当の部署に7年いたヒジリです! このページでは、公法上の契約と私法上の契約について、...

帰属主体というとわかりずらいですが、簡単にいうと、権利を得たり義務を負ったりすることができる者ということです。

例えば売買契約を締結したら、代金を受け取る権利を得たり、品物を引き渡す義務を負いますよね。そういったことができる者ということです。

この権利を得たり義務を負ったりすることができる資格を権利能力といいます。

民法では権利能力を持つことができるものを「」と呼んでおり」には次の2種類があります。

  1. 自然人
  2. 法人
ヒジリ

ネコやイヌが契約を締結することができないのは、法律的にいうと権利能力が認められていないからです

自然人

新採職員さん

自然人って不思議な表現だな。人とか人間じゃダメなの?

もっともな疑問ですね。

これは法人と区別するためという部分もありますし、さらには昔の奴隷制度が関係していると言われています。

当時は同じ人間でも奴隷は「人」ではなく主人の所有物でした。

これに対して近代法では権利能力のない人間、つまり奴隷の存在を許していません。

民法でも、人はだれしもが生まれながらにして権利能力を有するとされています

人間は生まれながらにして当然に法律上の「人」であるという考え方から自然人と呼ばれているわけです。

当然に人である = 自然人

意思能力

では自然人であれば、全ての人が有効な契約を締結できるのでしょうか?

実はそうではありません。意思能力を欠く人が行なった契約は無効とされています

悩める職員さん

ややこしい・・・

ヒジリ

面倒に感じるかもしれませんが、このあたりのことを理解しておくと競争入札の参加資格についての理解が深まります。

ざっくりでもいいので知っておきましょう

意思能力とは、自分がした法律行為の動機や結果を理解できる能力のことです

簡単にいうと最低限の判断能力といったところでしょうか。

例えばトミカが大好きな赤ちゃんが300万円の自動車を買う契約をディーラーと締結してしまったら親御さんはパニックですが、赤ちゃんに意思能力はありませんから無効とすることができるわけです。

第三条の二 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。

民法より

行為能力と制限行為能力者制度

中堅職員さん

意思能力の有無ってどう判断したらいいのかしら?

赤ちゃんならわかるけど、成長してきたらわからないわ

そうなんです。何歳からとか、認知症がどれくらい酷かったらとか、具体的な判断基準がないので難しい問題です。

そこで民法には、あらかじめ意思能力が十分でない人を類型化し行為能力を制限することで、その人の財産や利益を守る制度があります。

これを制限行為能力者制度といいます。

意思能力が無いと自分でもよくわからないまま契約を締結したり、相手方に誘導されて契約を締結して財産を失ったりするかもしれませんからね。

行為能力とは、自ら単体で有効な意思表示ができる能力のことです

意思能力と行為能力

意思能力:自らの法律行為の動機や結果を理解できる能力

行為能力:自ら単体で有効な意思表示ができる能力

制限のない自然人が契約を締結する場合には、意思能力によって自らの契約について理解のうえ、行為能力によって有効な意思表示をするということになります。

この行為能力が制限されているのが制限行為能力者です。

制限行為能力者制度の4類型

制限行為能力者制度では、制限行為能力者を次の4類型に分け保護しています。

制限行為能力者の4類型
  1. 未成年者(満20歳未満。2022年4月1日以降は18歳未満)
  2. 成年被後見人(精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く者)
  3. 被保佐人(精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分な者)
  4. 被補助人(精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な者)

例えば未成年者が契約をするためには、原則として法定代理人(通常は親権者)の同意が必要です。

同意を得ずにした契約は、法定代理人または未成年者自身で取り消すことができるんです。

自治体契約の事務に必要な知識としては、4類型のそれぞれの要件や制限の範囲など、詳細まできっちり覚えておく必要はないです。

ただし自治体職員は公金を使って契約を締結するわけですから、契約が取り消される事態にならないよう制限行為能力者や制限行為能力者制度の存在については十分認識しておきましょう。

ヒジリ

4類型の違いについては比較表を載せておきますので、業務を進めていくうえで必要がでてきたら確認してください

制限行為能力者未成年者成年被後見人被保佐人被補助人
法定代理人親権者・後見人後見人補佐人補助者
要件満18歳に満たない人(民法改正に伴い2022年4月1日より20歳から18歳へ引き下げ)精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く者精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分な者精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な者
能力の程度・法定代理人の同意が必要
・婚姻による成年擬制がある
日常生活に関する行為を除くと単独で有効な法律行為はなし得ない原則単独で有効な法律行為をなし得るが、元本の領収や不動産の処分等財産上の重要な法律行為には補佐人の同意が必要原則単独で有効な法律行為をなし得るが、家庭裁判所が指定した事項については補助者の同意が必要
法定代理人の権限代理人の同意のない法律行為の取消権成年被後見人の行為の取消権被保佐人による同意のない法律行為の取消権被補助人による同意のない法律行為の取消権
制限行為能力者制度の4類型

まとめ ー法人については別記事でー

このページでは契約主体になれる自然人について勉強しました。

要点①
  • 権利や義務の帰属主体となれる能力=権利能力
  • 権利能力を持つことができる者=民法上「人」という
  • 「人」には2種類ある=自然人と法人
要点②
  • 意思能力=自らの法律行為の動機や結果を理解できる能力
  • 行為能力=自ら単体で有効な意思表示ができる能力
  • 意思能力を欠く人がした契約は無効となる
  • 意思能力が十分でない人を4類型に分け、行為能力を制限して保護する制度=制限行為能力者制度
  • 制限行為能力者が、法定代理人の同意を得ずした契約は取り消すことができる

契約を取り消される事態にならないように注意しましょう。

とはいっても、全てをきちんと覚えておく必要はありません。頭の片隅に入れておくだけでもトラブルは未然に防ぐことができます。

ヒジリ

ここまで読んでくれた方は、普段の業務でも色々気づきがあると思います!

お疲れさまでした!