お久しぶりです。もと地方公務員で入札契約担当の部署に7年いたヒジリです。
このページでは、双方代理と自己契約について解説します。
双方代理と自己契約ってどういう意味なの?
契約相手の代表者と市長が同じ人なんだけど、契約していいのかな?
こんな職員さんのための記事です。
自治体の契約では、契約の当事者同士がともに市長になるというケースが稀にあり、契約担当者の頭を悩ますことがあります。
このページでは、そんな悩める職員さんが思考を整理できるように、次の点についてわかりやすく解説していきます。
- 双方代理と自己契約の意味
- 双方代理等の禁止
- 双方代理を回避する方法3点
契約を制す者は公務員を制す!
それではやっていきましょう
双方代理と自己契約とは?
まずは定義から見ていきましょう。
双方代理とは、1人の代理人が契約当事者双方の代理人となって契約することをいいます。
例えば、ある中古車を買いたい買主AさんがCさんに代理人をお願いして契約を締結したら、Cさんは売主Bさんの代理人でもあったというケースです。
まさに双方の代理です。
双方代理は両者の代理人が同一人であったのに対して、自己契約とは、一方の当事者が相手方の代理人と同一人である場合です。
例えば、ある中古車を買いたい買主AさんがBさんに代理人をお願いして契約を締結したら、Bさん自身が売主であったというケースです。
双方代理と自己契約の禁止
禁止の理由
代理人がした行為の効果は本人に帰属しますから、本来、代理人は本人の利益のために代理行為をする立場にあります。
しかし、双方代理や自己契約のケースでは1人が2役を演じているわけですから、どちらかの本人の利益が不当に害されるおそれがでてきます。
双方代理であれば両者の代理人が同一人ですから、片方の本人の利益を優先すれば、もう片方の利益を損なうことになります。
両者の代理人Cさんが、買主Aさんのために中古車の代金を20万円値下げしたら、売主Bさんは損してしまいます。
逆に値上げしたら、買主Aさんが損してしまいます。
自己契約であれば、代理人を頼まれた人が自己の利益を優先してしまうと、代理を頼んだ本人の利益を損なうことになります。
売主Bさんが自分のために代金を20万円値上げしたら、Bさんに代理人を頼んできた買主Aさんは損することになりますね。
このように双方代理や自己契約は片方の利益を守ろうとすると、もう片方の利益を損なうことになるので、民法では原則禁止しています。
禁止している方法
民法で禁止しているっていうけど、どのように禁止しているのかしら?
民法では、双方代理や自己契約で行われた代理人の行為は、代理権限が無かった人がした行為(無権代理)とみなしており、これにより双方代理等を禁止しているんです。
(自己契約及び双方代理等)
第百八条 同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
2 前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
民法より
無権代理人がした行為の効果は本人に帰属しませんから、1人2役を演じている双方代理や自己契約では契約が成立しません。
ただし無権代理は、本人が追認すれば遡って代理行為が有効となります。
また、代理権限を授与する本人が「双方代理や自己契約でもいいですよ。それでもあなたにお任せしますよ」とあらかじめ許諾していれば、このような代理行為も有効となります。
自治体でも双方代理は禁止
一般的に双方代理が禁止なのはわかったけど、自治体のする契約でも禁止なのかな?
こんな声が聞こえてきそうですね。
自治体の代表者である知事や市長ともなると、いろいろな外郭団体の理事長を務めています。
市長が代表を務める外郭団体とその市長が代表者である自治体が契約を締結したら、双方代理になります。
外郭団体とは、国や地方公共団体の組織の外にありながら、それらの組織から出資・補助金を受け、行政の補完的な業務をおこなう団体のこと
結論を言うと、自治体契約の双方代理については次のような判例があり、自治体契約でも双方代理での契約を無効と判断しています。
普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表して行う契約締結行為であっても、長が相手方を代表又は代理することにより、私人間における双方代理行為による契約と同様に、当該普通地方公共団体の利益が害されるおそれがある場合がある。そうすると、普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表して行う契約の締結には、民法108条が類推適用されると解するのが相当である。
(最判平成16年7月13日民集58巻5号1368頁)より
難しい文章に感じるかもしれませんが、ここまで読んでくれている人なら、きっと理解できます。ファイトです!
契約担当者にとって、判例を知ることも重要な仕事のひとつです。
双方代理を回避する方法
では、実務で双方代理になってしまう場面が訪れた場合、どのように対応したらいいのでしょうか。
もし、あなたが担当している契約が双方代理になってしまう場合は、慌てずに次の3点について確認してみてください。
- 契約の相手方として本当にその団体しかいないのかを確認する。他の団体でもよければ、そちらと契約する。
- 契約相手の団体には、市長以外に代表権を有する役員や理事がいないのか確認する。いるのであれば、その人に代表してもらい契約を締結する。
- 地方自治法153条第1項の規定によって、市長の権限を副市長等に委任できないか確認する。できるのであれば、副市長等で契約する
第百五十三条 普通地方公共団体の長は、その権限に属する事務の一部をその補助機関である職員に委任し、又はこれに臨時に代理させることができる。
地方自治法より
①について、僕の経験上、外郭団体と契約する場合というのは1者特命随意契約であることが多いです。
ですので、本当にその外郭団体でなければ履行できない契約なのか、自治体に不利になってしまう契約なのか、もう1度立ち止まってよく考えてみましょう。
①を考えた結果、その団体と契約しなければならないと判断した場合には、次に②と③について確認してみましょう。
契約相手の団体の代表者または自治体側の代表者どちらかを代えることができれば、双方代理ではなくなります。
まとめ
このページでは、次の点について解説しました。
- 双方代理と自己契約の意味
- 双方代理等の禁止
- 双方代理を回避する方法3点
- 双方代理:1人の代理人が契約当事者双方の代理人を兼ねている場合
- 自己契約:一方の当事者が相手方の代理人の地位を兼ねる場合
- 民法では、双方代理や自己契約は無権代理とみなされ、本人の許諾がある場合を除き禁止されている。
- 判例があり、自治体のする契約でも双方代理の禁止に抵触する
- 契約の相手方として本当にその団体しかいないのかを確認する。他の団体でもよければ、そちらと契約する。
- 契約相手の団体には、市長以外に代表権を有する役員や理事がいないのか確認する。いるのであれば、その人に代表してもらい契約を締結する。
- 地方自治法153条第1項の規定によって、市長の権限を副市長等に委任できないか確認する。できるのであれば、副市長等で契約する
自治体と自治体の長が代表を務める団体との契約は、住民からの注目度も高くなりますから、制度をよく理解したうえで慎重に事務を進めていきましょう。
ここまで読んでくれた皆さんなら大丈夫ですね!
お疲れさまでした!